【髪・髭・髻】身体の慣用句とその使い方・例文

【髪・髭・髻】身体の慣用句とその使い方・例文

今回は「かみ・ヒゲ・たぶさ」に関する慣用句をまとめていきますよ。といっても、ここで紹介している慣用句のほとんどは現在では使われていない慣用句。なので、あまり覚えていなくてもこれといって困ることはないでしょう。

ただ、知っていると昔の書籍を呼んでいる時どのような意味合いで使われているかがわかる…というメリットはあるかもしれません。

まあ、知的好奇心を満たすためのものとして、知りたい人は読んでみてもらえたらと思います。

髪・髭・髻の慣用句とその使い方・例文

後ろ髪を引かれる

何かしら心残りがあってもその場を離れなければならない時によく使われるのがこの「後ろ髪を引かれる」という慣用句。旅先でもう少し満喫したい時や、中のいい人と一緒に過ごす時間が終りを迎える時に使うと効果的です。

例文
今日は久しぶりに会った従兄弟と大いに遊んだが、もう帰る時間だ。後ろ髪を惹かれる思いで僕は車に乗り込んだ

間髪を容れず(かんはつをいれず)

「間髪を容れず」とは間をおくことなく直ちに、ほとんど同時に、という意味がある言葉で割と頻繁に使われます。髪の入る隙間すらないことからできたことからこの意味になったのだとか。

「いれず」の漢字は「入れず」でも「「容れず」でもどっちでもいいです。ただし「間髪」は「かんぱつ」とは読みません。「間髪」と書いて「かんはつ」というのが正しい読み方だそうです。

例文
今日は早めに寝たかったので、ご飯を食べてから間髪入れずにお風呂に入ることにした。

髭の塵を払う(ひげのちりをはらう)

目上の人にゴマをすっている人っていますよね。ろくに仕事もできないのに高い役職についている人って上へのゴマすりが上手なんですよ…。この「髭の塵を払う」という慣用句は、自分より目上の立場の人にゴマすりして媚びへつら様子を表した言葉。

そんなことするくらいならこっちの仕事を少しでも手伝えってもんですよ全く…。

例文
あの人は課長の周りをうろついて何かあればすぐ対処できるようにしているが、自分の仕事はろくに進んでいない。髭の塵を払っているつもりだろうが、うちの課長があんなご機嫌取りに乗せられるとは到底思えない。

髪上ぐ(かみあぐ)

「髪上ぐ」は髪を結って上に持ち上げることを指す慣用句です。読んで字のごとく長い髪を結って上に上げることを指す言葉です。慣用句でもなんでもないように感じてしまいますが、万葉集や紫式部の日記などかなり昔から使われている表現です。

仕事のために髪を上げたり、聖人の儀式のための髪上げのことを指すのですが、現代では普通に「髪を結う」で通じるのでわざわざ使う必要もない言葉かもしれません。

髪洗う(かみあらう)

こちらも慣用句でも何でも無いように見える言葉ですが、女性が汗ばみや汚れを落とすために髪を洗うことを表現する慣用句。ちなみにこれは季語です。

というのも、昔は現代のように長い髪でもさっさと乾かせるドライヤーなる文明の利器はありませんでした。ですので洗髪しようものなら乾かすのが大変です。

平安時代ともなると1年に一回しか髪を洗わないのが普通だったとか。髪を洗う季節が夏で、「髪洗う」が夏の季語となったのでしょう。

江戸時代でも髪を洗う頻度は月に1回~2回程度だったそうで、やはり現代のように毎日は洗わなかったのですから、常識というのは常に変わっているのがわかって面白いですね。

髪の長きは七難隠す(かみのながきはしちなんかくす)

これは慣用句というよりことわざですが、髪が長いことは他の欠点をすべて隠してしまうという例えがこの「髪の長きは七難隠す」です。同じような言葉で「色の白いは七難隠す」というものがあります。これは色白であれば多少顔が悪くても美しく見えるというたとえ。

髪の毛が長いと多少エラが張っていたり輪郭が丸かったりしても、ほぼ隠れてしまうんですよね。アイドルグループでも髪が長い人がショートカットにしてみたら顔がぜんぜん違った…という人もいますよね。

詐欺じゃん!と思わなくもないですが、昔からあるテクニックなのだと思えばちょっと感慨深く感じられるかも?

髪を下ろす

髪上ぐが髪を結うことだったので、ははーんこれもそのままの意味だな!と思った人!正直でいいですね!

この「髪を下ろす」という慣用句の意味は、髪を結わずにそのまま垂らしている状態のこと。
それともう1つ、髪を切って仏門に入る=尼になるという意味があります。女性限定の言葉で、男性の場合は髪を下ろすのではなく髪を剃ります。

戦国大名を亡くした妻がどうして髪を下ろして尼になるのか?と疑問に思う人もいると思います。その理由は、再婚しないという意思表示のためという説がありますね。いわば貞操観念に則った行動というわけです。

最近は芸能人の不倫が相次いで報道されていますが、昔の人は今よりも貞操観念が強く再婚なんてありえない!と誰しもが思っていたのかもしれません。

髪をはやす

こちらの「髪をはやす」という言葉は、そのまま髪をのばすという意味ともう1つ、少年の長い髪の毛を切って元服するという意味があります。「切る」の忌み言葉(特定の職業や場面で使用を避ける言葉)として「はやす」を使っているんですね。

言葉通りに捉えると、短い髪を伸ばすとか、坊主頭から髪を伸ばすという意味に思いますが、少年が成人になるときに使われる元服のための言葉ということを知ると、ちょっと物知りになった気分になりますね!

髭食い反らす(ひげくいそらす)

この慣用句は髭を口にくわえるように生やし、その先を反らす状態のことをあらわします。現代では口ひげを生やすこと自体ほとんどありませんよね。ですので使うことも見かけることもほぼ無い慣用句です。

戦国時代は口ひげが強さのシンボルかのごとく誰も彼もがしっかりと髭を蓄えていたのですが、徳川家康が天下を取り江戸時代へと移行した際にほとんどの大名が髭を落としたのだとか。

理由は、天下統一を成し遂げた徳川家への反逆の表れとしてとらえられるようになったから。しかし庶民の間では数年周期で髭ブームが巻き起こります。それを見かねた4代目の将軍徳川家綱が「大ひげ禁止令」を出したのでした。

そして明治以降、再度髭ブームが巻き起こることになるのです…。明治~大正時代の総理大臣はヒゲを蓄えている人物が多いですよね。まさに力の象徴のようにも見えるヒゲ、この慣用句のように髭食い反らしているように見える人物もちらほらと…。

髭を当たる(ひげをあたる)

しかし最近ではヒゲブームは小規模なものとなり、多くの人がヒゲを剃るようになりました。確かに見た目は格好いいしいかにも強そうなのですが、髭をはやしていると汚く見えることから生やさない人が多いのかもしれません。

ヒゲを剃ることを当たるというのは髭を剃るという意味なのですが、なぜ当たるなのか。「剃る」は賭け事でお金をなくす「する」と発音が似ていることから、忌み語として「当たる」が使われているのだとか。

当時の人は忌み語を使って嫌なことは考えないようにしてきたのでしょうか…。

髭をなでる

そしてこの髭をなでるとは、物事に対し得意そうな態度をとったり自慢げにする様子を表した慣用句。しかしヒゲを生やしている人が少ない昨今では使うシーンも限定されそうな言葉ですね。

例文
あの教授は学生が解けなかった問題も髭をなでながらいともたやすく解いてしまった。

髻放つ(もとどりはなつ)

髻(もとどり)ってなんだかわかりますか?髪の毛を頭の上に束ねた部分のことをもとどり(またはたぶさ)と呼びます。ちょんまげのように頭をつるつるにする必要はなく、長い髪を束にして結えばもとどりとなります。

で、この髻放つとは冠や烏帽子(えぼし)などをかぶらずに髻をそのまま出すことです。烏帽子は礼装とされていたものでそれをとるということは礼儀に反することだ、というわけなんです。

現在では室内で帽子を被っている方がマナーがなっていないと言われるのですが、平安時代では帽子は被らなきゃいけないものだった、というのがなかなか興味深いところです。

髻を切る(もとどりをきる)

髻は髪を結ったものというのは上でお伝えした通りですが、この「髻を切る」には出家する=仏門に入るという意味があります。

髪の毛の有無で仏門に入っているかどうかがわかるんだったら、現在なら野球少年はみんな出家済みですよね。古代の日本人が見たらなんともシュールな光景に違いありません。

怒髪冠を衝く(どはつかんむりをつく)

たまに使われているのを見る「怒髪冠を衝く」ですが、「怒髪天を衝く」もほぼ同じ意味となります。具体的には激しい怒りで髪の毛が逆立ち凄まじい形相になる状態のこと。怒髪天を衝くは髪の毛が天に届くほど逆だっている状態を表現したものですね。

漫画などの表現で怒りで髪の毛が逆立つ表現はよくありますが、現実では怒りによって髪の毛が逆立つことはまずありません。比喩表現といえばそれまでですが、頭に血が上った状態になると髪の毛が逆立ったような変な感覚になるので、あながち間違ってはいないような気も。

旋毛が曲がる(つむじがまがる)

つむじって髪の分け目に沿って大体まっすぐだったりするんですが、人によってはちょっと曲がっていたりしますよね。そのつむじが曲がっていること=性格がひねくれていることを表現したのがこの言葉。

別につむじがまっすぐでも性格はひねくれている人もいますから、一概には言えないんですけどね。

例文
彼は手伝って欲しい時に来てくれず、どうでもいい時に必ず現れる。なんとも旋毛が曲がった人物だがひとつだけ美点がある。それは時間だけは厳守することだ。

睫を読まれる(まつげをよまれる)

まつげを読むってどんな状況だよって感じですが、相手に考えていることを読まれたり馬鹿にされるという意味があります。また、だまされるとか化かされるといった意味も。狐にまつげの数を数えられると化かされるという言い伝えから来た慣用句だそうです。

例文
まるで睫を読まれたかのように私の行動が筒抜けとなっていた。きっと見えないところでほくそ笑んでいたに違いない。

まとめ:髪・髭・髻は現代では使い所が難しい慣用句

はい、というわけで髪・髭・髻を使った慣用句をまとめてみたわけですが…実際に使えそうなものは少ないですね。そのため例文も控えめ。

特に「たぶさ」なんか最近は使うことさえないですし髪型としても女性がお団子アレンジとして結うくらいのもの。

なので、あまり馴染みのないものばかりですが、慣用句としては残っていますので見かけたらラッキーくらいに思っておくと良いかもしれませんね。

こちらの記事もオススメです