あなたが知っておくべき刑務所の話「拘置所編」
旧タイトル:「僕が知っている限りの刑務所の話を書こうと思う~知っておきたいムショの話-拘置所編-」
目次
はじめに
あなたは、「刑務所」という所が自分には関係のないものだと思ってはいないだろうか?
それは人による部分が大きいが、広い意味で間違いではないが正解でもない。
実は、刑務所という所は万人すべてが入る可能性のあるものなのである。
こう言っても「いいや、私は絶対に入らない」と言う人もいるだろう。
しかし、それはその人の意志による行動では入らないということであり、予想もしなかった出来事や意思に反する行動などの不可抗力で入る可能性はあるのだ。
例えば交通事故。あなたに人を傷つけるつもりはなくても事故で誰かにケガをさせれば「過失傷害」、死亡させてしてしまえば「過失致死」。これは刑事事件で、有罪で懲役刑または禁錮刑が確定すれば刑務所行きである。
あなたが誰かを一方的に傷つけてしまえば、理由に関係なく「傷害罪」。怒りに任せてうっかり口を滑らせて相手に恐怖を与えれば「脅迫罪」の可能性もある。
こちらも同じく有罪で懲役刑が確定すれば刑務所行きである。
酔った勢いだとか、酔って記憶がないとか、そんなつもりじゃなかったとか、そんなものは言い訳にも何にもならない。即連行である。
現在の日本にいる数万人の受刑者の中には、「まさか自分が」と思っていた者もたくさんいることだろう。
そこで、いつどうなるかわからない人生の中で、もしあなたが不幸にも「受刑者」として番号が与えられた時のための備えとして、逮捕されたらどうなるのか?受刑者とその生活とはどんなものなのか?についてご紹介していこうと思う。
知っておいて損はないし、知っておくべきことなのかもしれない。
ここから先は、あなたが当事者(受刑者)となった目線で読んでいってもらいたい。
※情報は事実に基づいているが、人物とストーリーについてはフィクションである。また、時系列は正しいが、その過程は割愛している部分がある。のでご了承ください。
受刑者への道
逮捕されたらいきなり刑務所に連れていかれるわけではない。
まずはあなたが犯した(犯してしまった)罪についての裁きを受けなければならない。
未決囚から受刑者へ
この状態の間は「未決囚」と呼ばれる。刑が確定していないので、当然まだ受刑者ではない。
もちろん裁判の内容によっては無罪放免の可能性も残されている。
「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」と判断されれば自宅収監となり、一応今まで通りの生活を送ることができる。
しかし、すべてが今まで通りとはいかないことは言うまでもない。
拘置所での生活
それ以外の場合は「拘置所」に収監されることになる。拘置所と刑務所は役割が異なるものではあるが、その中での生活は刑務所とほとんど変わらない。
まず入所する時点で魂を抜かれる経験をすることになる。
持ち物はすべて取り上げられ、素っ裸にされる。
そして、身体検査。これを一般的な身体検査と考えてはいけない。口の奥から尻の穴の奥まで全身をくまなくチェックされる。
普通の生活なら考えられないことだ。もうこの時点で帰りたい。泣きそうになる。でも「絶対に」帰れない。
それが終わればいろんな人が着てきたボロボロの、いわゆる「囚人服」に着替えさせられる。
色はグレーで個性もなにもない。サイズもバラバラである。
そして出席番号以来の番号が与えられる。
そして、刑務官とともに建物内へ…。これがなんとも異様な光景と雰囲気である。
およそ10畳ほどの小さな部屋に、8~10名の人間が「閉じ込められている」のである。そして、あらゆる窓に鉄格子があり、すべての部屋のドアにはドアノブがない。
ここに自分も入るのかと思うと気が滅入るどころの話ではない。死にたくなる。
見知らぬ人々(犯罪者)との生活
こんなところで生活しながら裁判所に通い、刑の確定を待つのである。
刑が確定していない内は作業の義務はない。ただ見知らぬ人々と寝食をともにして、ひたすら時間が過ぎるのを待つだけの生活である。
仕事なんかに追われる生活は辛いかもしれない。しかし、何もすることがないことほど辛いものはない。
することはないが、一日に決められた範囲内であればチョコレートやお菓子の購入ができる。
暇だけどお菓子はある。食べるしかない。
そして、ほとんどの人がここでデブの仲間入りをすることとなる。
晴れて(?)刑が確定したらいよいよ受刑生活のスタートである。
ここでは3年の懲役刑を受けたとしよう。
刑が確定すると「確定囚」専用の監房へと移動させられることになる。
このころにはある程度免疫がついているので、精神的な負担はほんの少し軽くなっているかもしれない。
しかし、いよいよあなたが微塵も考えたことのなかった、犯罪者としての生活が実際に始まるのである。
「拘置所」というところ
ここからは、僕「つぶお」が受刑者役になって展開していくことにする。
受刑者となったら、まず「新入房」と呼ばれる新人教育用の雑居房(相部屋のこと)という部屋で約2週間を過ごすことになる。
部屋はどこも同じ造りとなっており、8枚の畳とトイレ・台所があり、壁にそれぞれの受刑者専用の棚がある。
ここで入れ替わり立ち代わり8人~10人の受刑者たちが「共同生活」を始めることになる。
一人あたりのスペースは畳1枚もない。
ここで、(確定受刑者としての)拘置所生活の特徴についてまとめてみよう。
- 大きな窓はあるが、カーテンはない。しかし鉄格子はある。
- 窓の外は一切見えないようにアクリル板が設置されている。
- ドアノブはなく施錠されており、開けることはできない。
- テレビはないが、自由には聞けないラジオがある(時間によって壁のスピーカーから勝手に流れてくる)。
- 布団はカビまみれ、畳には害虫が湧き放題。
- トイレは個室となっているが鍵はなく、上半分は透明ガラスで外から丸見えである。
- 入浴は夏の時期は週3回、冬は週2回。
- 完全週休二日制で、休日とカレンダーの赤い日に作業はない。
- 一日3食は保障されるが、自由に買える食べ物は皆無。
あぁ、聞いただけでも十分滅入るな。
新人受刑者の教育
この新入房には、新人教育係の受刑者がおり、その人が受刑生活の心得いついていろいろと教えてくくれることになる。
ここでは新人教育係の新井さん(仮名)としておこう。
僕にとって1日が1週間にも感じられるこの環境で、3年となれば10年にも匹敵する感覚だった。
その他の人たちと個別に自己紹介をかわし、やっちまったことと刑期などについて話した。
その最中に気が付いたことがある。全部で8人いる中で半分の人の小指がなく、6人の人の袖から見える肌には美しい模様があった。帰りたい。
そしてその人たちは懲役太郎(筋金入りの犯罪者)ばかりであり、罪名は窃盗・ドラッグ・強盗・強姦などなど。
これは本当にとんでもないところに来てしまった…この世の地獄だ。
懲役受刑者となったら刑務作業が義務付けられることになる。これは仕事ではない。個人の意志とか気持ちとか全く関係のない強制作業である。
その作業は、デパートでもらえるような紙袋を作るものだった。
山のように届く厚紙を折って貼って折って貼って…1日8時間、延々と繰り返す。
精神的ショックから、3日間まったく眠ることができなかった。
~入房から2週間後~
2週間が経ち、また他の部屋に移動することになる。受刑者の新人から一人前になったのである。
移動といっても同じフロアの3つ隣の部屋に行っただけだった。
そして、新しい部屋でもスタートは同じ。
「部屋長(部屋に来たのが一番早い人)」と呼ばれる人がいてその人がいろいろ話しかけてくる。
どうもこういう場所には、おしゃべりでおせっかいな人が各部屋に一人は配置されているようである。
また、受刑者の上下関係は入ってきた時期で決まっているようで、早い人ほど窓から遠い快適な空間が与えられている。窓に近いと夏は暑く冬は寒いのである。
そんなある日事件は起きた
僕が朝起きて(6時に強制的に起床)背伸びをした、その時。
何が起きたのかわからない。なんだ?
まったく意味がわからない。
呆気にとられていると、おしゃべりおじさんこと寺門さん(仮名)(窃盗罪・5年・3回目)が教えてくれた。
僕の動揺は収まらない。
刑務所への移送
そんなこんなで数カ月が経ち、いよいよ刑務所へ移送されることになる。
どの刑務所に行くかは学力や知能指数、性格や前科などのいろいろな要素と面談によって決められる。
学歴社会がこんなところにあるとはねぇ。
このころ僕は、独特の規則を理解しながら生活できる、立派な受刑者となっていたのだった。
総面積10畳たらずの部屋で数カ月もの間、それも24時間「完全」に同じ空間で8人以上の犯罪者たちと過ごす感覚は、経験がない人には理解できないだろう。
中にはうっとうしいヤツも多く、殺意を覚えることもある。しかし、逃げ道はない。自分を守るためにひたすら我慢するのである。
問題を起こせば出る時期はますます遠くなり、最悪の場合プラスされることもある。
逆に「模範囚」を貫けば、仮釈放の恩恵にあずかることができるので、定められた刑期よりも早く出ることができるのだ。
あるベテラン受刑者がこんな言葉を教えてくれた「辛抱仮釈」。
その時また僕は思った。「とんでもないところに来てしまった」と…。
いざ刑務所!
刑務所への移送の日が来た。なんとなく嬉しい自分が嫌だった。
同じ刑務所行の人たちといっしょにワゴン車に詰め込まれて移動することになる。
外に出る時手錠をされ、他の受刑者と腰縄で繋がれる。まるで映画の世界だ。
数カ月ぶりに見た外の世界は新鮮で、テキサスの荒野にいるかのように広く感じる。走る車を目で追えないほど、スピードに対する免疫がなくなっていることに気付く。
そして、僕は生まれて初めて車酔いというものを経験した。
数時間後、刑務所に到着。ここは初犯刑務所に分類される所で、僕のような初犯(前科のない刑務所初登場の人)受刑者専用の刑務所である。
拘置所と比べると、小学校の校庭と東京ビッグサイトぐらいの面積差がある。
とにかく広くてでかい、言ってみればマンモス団地のようなものである。
ここでは所持品検査と(尻検査なしの)身体検査があり、拘置所同様に新入房へと入れられる。
ここではもう慣れたもので、規則正しい快適な生活が待っている。
と思っていたが、その後すぐに刑務所と拘置所の違いを教えられることになる。
刑務所の心得
新入房で過ごす期間は、いわば訓練期間であり、「正しい受刑者」としての心得を体と心に叩き込まれる期間だったのだ。
約2週間の間、刑務所の心得についての授業(?)を受け、その後行動訓練。それをひたすら繰り返す。
また、この期間でいろいろなものを判定されていき、刑務所内で配置される工場が決まるのである。
行動訓練とは、義務教育の体育の授業を思い浮かべてもらえばわかりやすい。
ラジオ体操を完璧に行うこと。姿勢と隊列を乱さず行進を完璧に行うこと。これが主な目的である。
簡単そうに感じるが、20代~70代までが混在している中では簡単にはいかない。
何度やってもラジオ体操はできないし、覚えられない人だらけ。当然行進はバラバラ。
体力がなかろうが、体調が悪かろうが、おじいさんであろうがそんなことは関係ない。みんな同じ受刑者。そしてここは刑務所なのだ。
怒鳴られ怒鳴られ、また怒鳴られて無理やり矯正していくのだ。やらされる側もキツイだろうけど、付き合わされる側はもっとキツイ。
おじいさんは耳が遠いし体力もない、筋肉も衰えているから誰が見ても無理なのはわかる。しかし、ガンガン怒鳴られる。
たぶん刑務官もそれはわかっているんだろうけど、そこは法務省のお役所仕事。「決まりだから」やるのである。公務員に例外なんてないのだ。
こんなのが毎日繰り返されているのだ。終わるわけもない。
みんなできるだけ楽な工場に行くことしか頭にないから必死である。
いい大人があんなにも一生懸命にラジオ体操をしている姿を見ることになるとは思わなかった。
訓練を担当している刑務官に嫌われてしまえば、その後の受刑生活は悲惨なものになる可能性だってあるのである。
ゴマすり受刑者も現れる。しかし、そういった受刑者は嫌われる。
これは後からわかったことだが、訓練の本当の目的は、「ここは刑務所だぞ!お前に自由なんてないんだぞ!」という意識を植え付けるためのもので、必要ないような場面でも過剰に怒鳴り散らすように刑務官は教育されているのだそうだ。
そんな毎日にへとへとになりながら訓練をこなし、新人受刑者の日々は過ぎていく。
刑務所のメシ
刑務所の工場は20種類以上に分けられており、肉体労働からデスクワークまで様々な仕事が待っている。
当然肉体労働は人気がないと思うだろう。しかし、そうでもないのだ。自ら肉体労働を志願する人も多いのである。
これには理由がある。肉体労働の工場にいけば、「ご飯の量が増える」のである。
配役される工場によってご飯の量は3種類に分かれており、仕事内容によって量が違うのだ。
例えば、パソコンを扱って刑務所の経理を担当する仕事と、溶接工場で肉体労働を担当する仕事であれば、ご飯の量は2倍になる。
娯楽などほとんどない刑務所生活の中で、一番の楽しみは「食べること」である。また、1日3食きっちり食べられるものの、夕食の時間は夕方4時~5時である。
それから朝食の時間までは12時間以上ある。ほとんどの人は起床の時間には空腹マックス状態となる。
受刑者にとってご飯の量は非常に重要なのである。
刑務所の食事のことを昔から「クサい飯」というが、これは誤解である。
一説には、昔の刑務所のトイレにはドアも仕切りもなかったことから、食事をトイレの悪臭の中で摂っていたことが由来とされている。
しかし、現実には刑務所の飯はクサくもないし、管理栄養士が作った献立であるから栄養満点である。
ほとんどのデブは刑務所で一気に痩せることになる。あのホリエモンも出てきた時は痩せてたよね。見事にリバウンドしているみたいだけど。
それと、「受刑者のくせにイイもん食ってる」という意見をよく聞くけど、これも誤解。
それはメニューだけ見て言っている可能性が高い。
例えば「カレーライス・豚汁・ポテトサラダ・漬物・味噌汁・プリン」というメニューだけ見れば「イイもん食ってる」と感じるだろう。
しかし、外の世界のメニューと刑務所のメニューとでは、同じものでも質には天と地ほどの差がある。
米は麦70%以上の数年前の米、カレーは粉っぽいし、豚汁は具なんてほとんどない味噌スープ、漬物はパサパサで水分がない、ポテトサラダは無味無臭、これが現実だ。
唯一まともなのが週に1,2回出るデザート。これは市販されているものだからね。
まぁこれは普通わからないだろうし、「受刑者≒社会に迷惑をかけた犯罪者」であるから、そう言われても仕方ないのかもしれない。
工場への配役
そして、いよいよ工場へ配役される日がやってくる。
僕つぶおは学がなかったために、悪名高き溶接工場へ行かされることになる。
今までホワイトカラー生活しかしたことがなく、まったく機械作業なんてやったことないのに。である。
受刑者の経歴や希望なんて関係ない。結局は人が足りないところに行かされることも多い。これが刑務所である。
ここまで来ると、気が付けば腹の座った受刑者となっている。
「帰りたい」とか考えても仕方のないことは考えないようになるし、出てからどうするか?という意味のあることだけを考えようとするようになる。
中には受刑生活の中で精神のバランスを崩して人生が180°変わる人もいるし、受刑生活を人生の糧とする人もいる。
なにはともあれ、ここまでは受刑生活の序章に過ぎない。ここからが受刑生活本番なのである。
一般社会にはいろんな逃げ道があるが、ここには一切の逃げ道はない。死ぬ自由さえ与えられていないのだ。
意に反してこんな世界に飛び込むことになった逃げられない男、つぶおはこれからどうなっていくのだろうか…。
続く…